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携帯らっと
10



 「ふたりとも、やめるんだ!」
 「やめるんだ!」
 小さな女の子もぴよらっとを真似して叫んだ。しかしその手はぴよらっとの耳へと伸び、キャッキャと可愛らしい声を上げながらこね回し始めた。
 ぴよらっとは少し困ったように、女の子に何か話しかけた。ゴルドはそんな二人の姿を呆然と眺めていた。
 不意にミカを拘束する手の力が緩んだ。ミカはゴルドの手を振り払い、木刀を構えようとして、やめた。つい今しがた燃え上がっていた筈の闘志が、何故か急激にしぼんでいくような虚脱感を覚えたのだ。いつの間にか争いの空気が通り過ぎ、ひとり取り残されてしまったような気まずさがあった。
 戦いをやめた二人の様子を見て、女の子とぴよらっとが駆け寄ってきた。

 数十分前。
 ぴよらっとは途方に暮れていた。その時間に受ける筈だった授業が急に休みになってしまったのだ。
 人がまばらになった教室でぽつぽつと次の授業の予習などをしてみたものの集中できず、どうしようもなく時間をもて余していた。その時ぴよらっとは、何気なくゴルドの言葉を思い出した。
 『昼間に授業を抜け出して図書館に行ってみたら、いつもと同じように桃子ちゃんがいたんだ』
 『いつ行っても必ず彼女がいるんだよ』
 ……このまま机の上でゴロゴロしているよりは、図書館で別の勉強をした方が有意義な時間を過ごせるかもしれない。そんな言い訳じみた考えを盾に、ぴよらっとは図書館へと向かうことにした。
 校舎の外に出ると、淡く赤い光がぴよらっとの体を桜色に染めた。人影はなくひっそりとしている。授業時間中の、何か秘密を隠しているようなこの静寂が、ぴよらっとは嫌いではなかった。
 グラウンドを横切り、公園風の荒れた道を歩いていると、木陰のベンチに小さな女の子の姿が見えた。年齢は十才くらいだろうか。もう肌寒い時期だというのに、水色のキャミソール一枚に白のスカートを身に付け、裸足にピンクのサンダルを履いている。真っ白な肌がぴよらっとと同じく桜色に染まって見えた。
 「あら、こんにちは」
 女の子はぴよらっとに気付くと、可愛らしく頭を下げた。蜘蛛の糸のように細く艶やかな黒髪がサラサラと揺れ、木漏れ日を受けて栗色に輝く。
 「こんにちは」
 ぴよらっとは少し戸惑いながら挨拶を返した。迷子だろうか。それとも学校関係者の子供が一人で遊びに来たのだろうか。
 「あの、寒くありませんか? この学校にご家族の方がいるんですか?」
 ぴよらっとが言うと、女の子はぴよらっとの目を見ながら、自分の隣に来いと言うようにベンチを軽く叩いてみせた。よく見ると、女の子の目は瞳孔の部分が深い赤色をしていた。ぴよらっとは少し考えてから女の子の隣に腰掛けた。
 「寒くはなくてよ。心配して下さってありがとう、うさぎさん」
 女の子はぴよらっとの耳や手をしげしげと見つめながら言った。
 「いえ、ぼくはうさぎではなくぴよらっとです」
 「もちろん知っていますわ」
 女の子は悪戯っぽく笑った。
 「この学校に家族がいるというのは、あながち外れてはいませんわね」
 ぴよらっとは、女の子の妙な言葉使いや言い回しに引っ掛かりを覚えたものの、とにかく会話を続けようと思った。この学校に家族がいるのであれば、職員室なり、その家族のいる教室なり、適当な場所に早く連れて行って上げた方がいい。
 「ええと、それはあなたのご兄弟ですか? お兄さんとか、お姉さんとか。それともご両親の……」
 「ゴルド卿というヴァンパイアですわ」
 ぴよらっとは、女の子の瞳を見た時から、なんとなくそんな予感を抱いていた。白い肌に黒い髪、そして赤い瞳。これらの特徴を併せ持つということはつまり……
 「ではあなたは、ゴルドさんの妹さんなのですか」
 「いいえ。母ですわ」
 ぴよらっとは大きな耳をふるふると動かした。聞き間違えたのかと思ったのだが、耳の調子は良好なようだった。
 「あらやだ可愛い……そんな風に耳を動かせるのね。ちょっと触ってみてもよくって?」
 「はあ……どうぞ」
 女の子は、楽しそうに歓声を上げながらぴよらっとの耳を揉んだり捻ったりした。
 「えーと……ぼくはゴルドさんの友人なので、彼のところまで案内しますね」
 女の子が蝶結びに挑戦し始めたあたりで、ぴよらっとはさりげなく耳を引いてベンチから降りた。
 「あら、そうでしたの。でも大丈夫、彼のいる場所なら分かりますわ」
 女の子は名残惜しそうにぴよらっとの耳をひと撫ですると、彼が向かおうとしていた校舎とは反対方向へと歩き出した。
 「あ、そっちは旧校舎ですよ。ゴルドさんならまだ授業中のはずですから、こっちの新校舎に……」
 「音が聞こえませんこと?」
 女の子が言うより早く、ぴよらっとの耳は確かに、何か重量のあるものが地面に落ちるような音を捉えていた。
 「私、離れていても彼の状態をある程度把握できるんですのよ。今のは、彼が誰かと戯れている音ですわ」
 ぴよらっとはぞっとした。旧校舎の工事か何かで重機が作業をしているのでなければ、今の音はまず間違いなく戦闘の音だ。この学校ではそう珍しいことでもないが、そちらが図書館の方向であることと、ゴルドがそこにいるかもしれないということが、非常に不吉な組み合わせに思えた。
 「急ぎましょう!」
 ぴよらっとが走り出すと、女の子も後に続いた。その顔には、無邪気な笑顔が浮かんでいた。

 ゴルドとミカが戦闘を行っていた場所から少し離れたところに、小さな東屋があった。そこにはぴよらっとと女の子がちょこんと並んで座っており、その向かい側に、ゴルドと、なぜか一緒についてきたミカが隣り合わせで座っていた。
 「まさかあなたがここに来ているとは思わなかったよ」
 ゴルドは、ぴよらっとの隣に座る小さな女の子に言った。
 「たまたま近くまで来ていましたの。せっかくだから久しぶりに貴方の顔を見て行こうと思いましてね」
 「どうせ腹が減っていただけじゃあないのかい? 僕のことなんかオマケでさ」
 「ええ、実はその通りですわ」
 女の子は楽しそうに笑った。
 「学校というのは素晴らしい場所ですわね。たくさんの学生たちをあえて狭い場所に詰め込むことで空想が熟成される……この仕組みは見事ですわ。様々な思考が渾然一体となって、えもいわれぬハーモニーを奏でて……」
 女の子は夢見るようなうっとりとした表情で両手を頬に当てた。口元が少し緩んでいる。
 「私、思わず夢中になってしまって、うっかりメインディッシュを逃してしまいましたわ」
 「やっぱりそれが目当てだったか……」
 と、ゴルドはそこで、ぴよらっとが二人の顔を見比べているのに気付いた。
 「ああ、すまないぴよらっと。紹介が遅れたな。彼女はミス・リリィ。僕の……まあ、家族みたいなものだ」
 「お母様だと聞きましたが」
 「なっ」
 ゴルドは一瞬ぎょっとしたような顔をして、それから苦い顔で女の子……リリィの方を見た。
 「リリィ、あなたはまた、わざと誤解を招くような言い方をしたんだろう」
 「だってその方がスパイスの効いた良い味になるんですもの」
 リリィは小動物のようにクスクスと笑った。
 「ぴよらっと、彼女は僕のヴァンパイアとしての親、つまり、僕を転化させたヴァンパイアなんだ。母というのはそういう意味さ」
 ゴルドは苦笑いしながらぴよらっとに説明した。
 「なるほど、そういうことでしたか」
 ぴよらっとは頷いた。
 「それで……リリィさんはお腹が空いているんじゃないですか? もしそうなら……」
 「ああいや、大丈夫。彼女はね、他人の思考とか感情とかいった精神エネルギーを喰うんだ。ぴよらっと、君もここまで彼女と一緒にいて、妙に気疲れするような感じがしなかったかい?」
 「いえ、そんな……」
 ぴよらっとは反射的にそう答えたものの、実際のところは、夜を徹して本を読んだ時のような、芯のある疲労を確かに感じていたのだった。
 「あなたはとても優しい味がしますわ」
 ぴよらっとを見るリリィの顔に、一瞬深い慈しみの色が浮かんだ。
 その表情を見てぴよらっとは、宙に浮いていた疑問がしっくりと収まったような気がした。恐らくさっきのゴルドとミカの戦闘を止めたのは、リリィの力によるものだったのだろう。彼女が二人の闘争心を喰い尽くしたおかげで、戦いの空気そのものが消えてしまったのだ。
 「ところでゴルド、そろそろそちらの方を紹介して下さるかしら? ご挨拶がしたいわ」
 しかし聖母のような表情はすぐさま雪が溶けるように消え去り、後に残った恐ろしく怜俐な瞳で、リリィはゴルドの隣のミカを見詰めた。
 「彼女はミカ。なんというか……まあ、命を狙われているらしい」
 ゴルドの紹介にミカは不満の表情を浮かべて何か言おうとしたが、間髪入れずにリリィが口を開いた。
 「初めましてミカさん、私はリリィ。ゴルドと同じヴァンパイアですわ。早速ですけど、聞いていいかしら。貴方は何故ゴルドを攻撃したのです? もしゴルドに非があったのであれば、私は彼の母としてお詫びをしなければなりませんわ。でも、もしもそれが正当な理由でなかったとしたら……私は彼の同胞として、その身を守るために力を貸さなければなりませんの」
 幼い姿に似合わぬ落ち着いた口調ではあったが、返答次第では二人がかりで報復をするという、つまりはそういう意味のことをリリィは言ったのだった。
 無言で立ち上がろうとしたミカの肩を、ぐっとゴルドが押さえた。
 「やめておいた方がいい。彼女は見た目こそ幼いが、千年を生きる正真正銘のエルダーだ」
 ミカはちらりとゴルドを見て、それから静かに座り直した。
 「理由は既に一度ゴルド卿に話しているのですが……吸血鬼を自称している彼が、最近ある特定の学生に一方的な接触を頻繁に試みているのです。学校に噂が流れるのは時間の問題です。そうなることは私の正義に反するのです」
 ミカはリリィの目をまっすぐに見詰めて言った。リリィは目を逸らさずに、少し考えるように間を置いてから、にやりと笑った。
 「貴方は、月の光のような味がしますわね」
 「……」
 「飾らず、決して嘘はつかないけれど、あえて誤解されるような言い方を選ぶ。それが貴方なりの美徳なのかしら」
 ミカの顔に、あからさまに不快感を示す色が浮かんだ。リリィはミカの思考を喰ったのだ。まるで他人の心を盗み見るようなその行為にミカが腹を立てたのも無理はない。しかしリリィはそんなミカの苛立ちさえ味わうかのように、微笑をたたえたまま続けた。
 「ミカさん、貴方は『噂が流れる』ことが『正義に反する』と言いましたわね。普通なら『吸血鬼を自称する者が特定の学生に接触すること』が『正義に反する』と、こう言う方が自然な気がしますけれど、そうすると前者と後者では意味が違ってきますわ。でも、ミカさんはあえて後者の意味を装ってこういう言い回しをしたのですわね? 何故なら……ねえゴルド、貴方には人間のお友達が大勢いるのでしょう?」
 「大勢ではないが……まあほどほどには」
 ゴルドは軽く肩をすくめるようにして言った。
 「ヴァンパイアを自称する者が特定の人間に近付くことなど、とっくに行われていた筈なんです。それなのに、今回に限ってミカさんが行動を起こしたのは、『噂が流れる』ことを懸念したからに他なりませんわ。つまりその『噂』の要因は、ゴルドではなく、相手の学生にあるということになりますわね」
 リリィはそこで一旦言葉を区切った。正面に座る二人の顔を交互に見て、どちらも口を挟まないのを確認してから続けた。
 「何故ヴァンパイアを自称するゴルドがその学生に近付くと噂になるのか……もしかすると相手の学生さんは、この学校に通う者にとって、ある種の怪談じみた存在なのではないかしら? 近付き難いもの、触れてはならないもの、不吉なもの……」
 「それは違います」
 ミカは思わず口走ってしまった後で、リリィに上手く乗せられたことを悟り、苦い顔をした。
 「そう、本当は全く違うのかもしれませんわね。ミカさんが身を呈して護ろうとしている程ですし……」
 ミカは何も言わなかった。
 「ところでゴルド、貴方はひとつ大きな勘違いをしているようですけれど」
 「……急に何の話だい?」
 唐突に話の矛先を向けられたゴルドは、軽く目を見開いた。
 「ミカさんは貴方の命を狙ってなどいませんわよ」
 「え、そうなの?」
 ゴルドはまるで世間話でもするように、隣に座るミカに尋ねた。しかしミカは少し俯いたまま、ゴルドの方を見ようともしなかった。
 「噂が立って困るのは誰だと思います?」
 「それは当然……」
 と、そこまで言って、ゴルドは口をつぐんだ。
 学生の評価書に影響を与えられるという特別な権力を持った図書委員長にヴァンパイアが近付いているとなれば、確かに根も葉もない噂が飛び交うことだろう。しかし桃子は一日中図書館に篭っていてほとんど他人と接触しないのだから、どんな噂が流れようとあまり影響はないのではないだろうか? 自分自身もいまさら噂程度で一喜一憂することなどまずない。……が、しかし一旦噂が立ってしまえば恐らく教師にもマークされるようになるだろうから、これまでのように桃子のことを探るのは困難になるかもしれない。ことによっては友人のぴよらっとまで巻き込んでしまうかもしれないのだ。
 ゴルドは隣のミカをちらりと見た。ミカは最初からゴルドのことを詳しく知っているようだった。ゴルドは桃子のことを探っているということをぴよらっと以外には言わなかったし、授業を抜け出して図書館に行く時も、他人に勘づかれるような下手な真似は決してしていないつもりだった。にもかかわらずミカは、ゴルドが頻繁に桃子と接触していることを知っており、授業を抜け出したところをピンポイントで待ち伏せることさえやってのけたのだ。
 そこまで詳しくゴルドの動きを把握していたのであれば、ぴよらっととゴルドが桃子を救おうとしていることを知っていたとしても不思議ではない。
 いや、そもそもミカはぴよらっとと同じ歴史編纂部の部員なのだから、桃子とぴよらっとのことを部長から聞いていて、その過程でゴルドのことを知ったと考えた方が自然かもしれない。しかしまさか、桃子を救おうとしているぴよらっとを守るためだけに、ミカは、ゴルドを斬ろうとするという大胆な行動を起こしたのだろうか?
 「いや、でも僕何度か死にそうになったんだけど」
 ゴルドは先ほどの戦闘を思い返しながら言った。
 「それはそうです。最初の一撃以外は殺す気でやっていたのですから、そう感じてもらえなければ困ります」
 ミカは平然とした様子で言った。ゴルドは無言でリリィの顔を見た。
 「あら? おかしいですわね。ミカさんは貴方のことを」
 「最初の一撃を避けられた時に」
 リリィが何か言いかけた途端、急にミカが割り込んできた。
 「その時に、ゴルド卿は本物のヴァンパイアだということが分かったので。なので、殺す気でやらなければ怪我を負わせることができないと思ったんです。万が一殺してしまっても生き返せばいいだけのことですし」
 「あのね……ヴァンパイアだって死んだら死んじゃうんだけど?」
 「私との戦闘に限っては、死など状態異常の一つに過ぎません」
 ゴルドは思わず頭を抱えた。リリィはニヤニヤと笑いながら片手でぴよらっとの耳をいじっている。ぴよらっとは虫を尻尾で追い払う牛のように懸命に耳を動かして、リリィの手から逃れようと試行錯誤していた。
 「つまり君は、僕をボコボコにすることで噂の予兆を吹き飛ばして、ぴよらっとと桃子ちゃんを同時に守ろうとしたと。こういうことでいいのかな?」
 確認するようなゴルドの問いかけに、しかしミカは曖昧な表情を浮かべたまま何も答えなかった。ゴルドの顔に疑問符が浮かんだ。
 リリィはそんな二人の様子をしばらく楽しそうに眺めていたが、やがて助け船を出すように口を開いた。
 「ですから、一人足りないのですわ、ゴルド」
 「足りないって?」
 「貴方のことですわ。ミカさんが護ろうとしたのは、その桃子さんという方と、このぴよらっとさんと、もう一人……」
 そう言ってリリィは、ぴっと人差し指をゴルドに向けた。
 「……いやいや」
 ゴルドは曖昧に笑いながらミカの横顔に視線を向けた。ミカは固い表情を崩さずに沈黙していた。
 これまでの会話からゴルドにも、ミカの沈黙が肯定を意味しているのかそうでないのかの区別がおおよそつくようになってきていた。
 「……それならもう少し穏便な方法を選んで欲しかったなあ。何も殺す気で襲いかかることはないじゃあないか」
 「先ほども言いましたけど、殺す気はありませんでしたよ。程々に痛めつけて、二ヶ月半ほど入院してもらう予定でした」
 「二ヶ月半とはまたずいぶん具体的だね」
 「人の噂を七十五日という名台詞を知らないんですか?」
 「ああ……」
 四人の間から、ようやく刺々しい空気が抜けたようだった。
 しかしミカだけは複雑そうな沈んだ表情をしていた。ミカの当初の計画では、ゴルドを病院送りにした後、ミカという女が異端狩りと称して異形の学生たちを無差別に襲い始めた、という噂を自ら流すことで、注目を一手に引き受ける算段だったのだ。
 しかし計画は破綻した。ゴルドが予想以上に強かったことと、リリィというイレギュラーが紛れ込んだために、目論みが全て暴かれ、何故か和解したような和やかなムードになってしまった。
 こうなっては別の手を考える他なかったが、簡単には思い付きそうになかった。この計画でさえ、苦肉の策だったのだ。
 真意を知られたことを逆手に取ってゴルドを説得するというのも考えたが、もう遅かった。もはやゴルド一人が桃子に近付かなければいいという問題ではなかった。
 彼らは桃子が本当はどういう存在なのか、正確には知らないのだ。
 「それではそろそろ行きましょうか」
 唐突にリリィが言った。
 「どこへ行くんですか?」
 ぴよらっとが固結びにされた耳をほどきながら聞いた。
 「もちろん図書館ですわ。貴方たちがそんなにも気にかけている桃子さんという方に、俄然興味がわいて来ましたの」
 ぴよらっとたちが何か言う前に、リリィはさっさと歩き始めていた。
 「しかし彼女は……何と言うか、難しいよ。色々と」
 広い歩幅であっという間に追い付いたゴルドが、歩きながらリリィの顔を覗き込むようにして言った。
 「大丈夫ですわよ」
 リリィは得意そうな笑顔でゴルドを見上げて言った。遠目から見るその様子はまさしく親子のようであった。そんな二人の後ろに、ぴよらっととミカも続いた。
 皆それぞれ胸の内に異なる思いを抱きながらも、何かが変化するのではないかという予感だけは等しくそこにあるのだった。