ripsh


携帯らっと
11-2



 「あなたも歴史編纂部……ですよね?」
 ぴよらっとは、隣を歩くミカを見上げながら言った。
 「ええ。ぴよらっとさんもそうでしたね」
 ミカは、前を歩く二人のヴァンパイアを見詰めたまま答えた。
 「ぼくは申し訳ないことに名前だけの部員ですが……ともかくご挨拶が遅れてすみません」
 ぴよらっとは歩きながら軽く頭を下げた。大きな耳がやわらかく揺れた。
 「気にしないで下さい。ぴよらっとさんの事情は部長から聞いています」
 ミカはぴよらっとの揺れる耳にちょっと目をやって、それからまっすぐ前を見た。
 「そうでしたか」
 少し間を置いてから、ぴよらっとはふと疑問に思ったことを口に出した。
 「そういえばこの部、どうしてこんな時期に勧誘活動をしているんでしょうね?」
 「元はちゃんと人がいたらしいです。でも部長が留学して、帰ってきたら誰もいなくなっていたんだそうです」
 「留学ですか」
 「外国……お祖母様の実家で五年間暮らしていて、帰ってきたら部活そのものがなくなっていたんだとか。だから自分でもう一度同じ部活を作りたいのだと言っていました。まあ、本当かどうかは分かりませんけどね」
 「と言うと?」
 「部長は今、三年生です。そして部長が留学したのは一年生の頃なんです。留学中に学年が上がることはありません。部長は、帰ってきてから三年生になるまでの間、部活に関することは何も行っていなかったんです」
 「ふむ……」
 と、そこでぴよらっとはおかしなことに気付いた。ミカが言ったことが確かならば、以前部長がぴよらっとに話したことの中に、引っ掛かる部分が出てくるのだ。それは、部長が桃子について話した時、『同じクラスだった』と言ったことだった。
 留学から帰ってきてから同じクラスになったということなら問題はない。が、部長は『図書館によく通っていた』とも言っていた。端末を使った方がよほど効率よく調べものをすることができるのに、わざわざ図書館に通う必要があるだろうか? 仮にその必要があるとすれば、それはぴよらっとのように桃子自身に用事がある場合だろう。だが部長は、桃子ではない別の誰かのために動いている筈だった。では、それ以外の理由があるとすれば……。
 ぴよらっとは図書館のデータベースについて調たことがあった。少しでも桃子を知るための足しになればと思ったのだが……それによると、現在の端末を使った図書館システムが完成したのは、約六年前だった。部長が留学する前はまだ新校舎も図書館システムも完成していなかったのだ。部長が図書館に通っていたのが留学前のことだとすれば辻褄が合う。ということはつまり、部長の同級生である桃子は、とっくに卒業している筈なのだ。
 ぴよらっとは首をひねったが、それ以上は具体性に欠けるぼんやりとした想像しかできなかった。

 これから、今までにない大所帯で図書館に詰め掛けることになる。たった一人で座っている桃子を取り囲む自分たちの姿を想像して、ぴよらっとは胸の奥に靄がかかったような気持ちになった。