-------------------------------------------------------------------------------- 5/0/0/3/黙黙狗散熱全/アリス=シンガブロッダ 5/0/0/3/儀1黙黙黙詠龍/木俣公子 -------------------------------------------------------------------------------- 似ている。 同じ素早さからの同時行動。 儀式剣を振る私と、黙祷剣を振るアリス。 こちらも遅れて黙祷剣を振ると、鏡合わせのようにアリスも黙祷剣を振る。 しかしアリスに三本目の黙祷剣はない。 黙祷剣二本を捧げての召喚、先手を取られた。 構築されたのは、まるで目の前のアリスを幼くしたような剣師、ライカ。 戦闘中なのに二人はキャッキャうふふとじゃれ合って、仲の良い姉妹のように肩車なんかしちゃっている。 混じり合うサラサラの美しい髪に見とれてしまって、少しドキドキした。 こちらも遅れて相棒のドラゴンを召喚する。 いつものようにドラゴンの背に乗る私の姿さえ、ライカを肩車するアリスと何か通じるものがあるような気がした。 しかし、もうクタクタで何もできない私と違って、アリスからはまだ余力を感じられる。 「いくよ、ライカ!」 「おー!」 声を掛け合うアリスとライカ。 協力して仕掛ける構えのようだ。 でも私は…… 「まあいつも通り何もできないんだけどさ、せめて祈っているよ」 《……別に気にすることはない。共に戦うことに変わりは無い》 前の戦闘ではびっくりしたけど、意外とコイツは話せるヤツらしい。 お茶目な一面もあったりして、なかなか可愛い。 図体がでか過ぎるからホイホイ呼び出すことはできないけど、良い友達になれそうな気がする。 これで共に、ビルドした剣師が先頭に立った。 その巨体に反して素早くドラゴンが先制し、斬撃を放つ。 しかし見た目は可愛らしくとも、ライカは歴戦の剣師。 重い一撃を容易く弾き返し、次の一撃もほとんどダメージを受け付けない。 加速・加熱。 ライカはまるで教科書のように丁寧に自己を強化する。 しかし私のドラゴンも、こと加熱に関してはプロフェッショナルだ。 呼吸するだけで熱量が増し、吐息を吹きかけた爪は赤々と研ぎ澄まされていく。 先程よりも強化された続けざまの斬撃。 見ただけで分かる強烈な一撃がまともに入った。 吹き飛んだライカを更に追撃し、左の腕で叩き落す。 並の剣師ならここで勝負ありだ。 しかしライカは何事も無かったように起き上がった。 ライカの強さは、そのバランスの良さにある。 豊富な体力に、きっちり揃えられた攻撃力と防御力、下手な攻撃では落とせない安定感がある。 落ち着き払って加速・加熱を行うライカの背中に、同じように剣を強化するアリスの姿が見えた。 「ここで仕掛けてくるよ!」 《我のことは気にするな、それより自分が落とされぬよう注意しろ!》 ライカの衝撃剣がドラゴンの胸元を叩く。 しかしドラゴンの皮膚は鉄壁、そう簡単にダメージは通らない。 私は衝撃の余波で落下しそうになったけどね! ほっとしたのも束の間、目の前に白い斬撃が現れた。 対象の数と距離を斬る、全体剣……! まともに食らったものの、幸い傷は浅く済んだ。 しかしこれは、アリスの攻撃だ。 はっとしてライカを見る。 衝撃剣を使った時よりも、全身から立ち上る加熱の陽炎が増しているのが見て取れた。 やはり、アリスは加熱剣を拡散させて、自分とライカを同時に強化している。 そして自分は後列から全体剣で攻撃か……見事としか言いようが無い、ぴったりと息の合ったコンビネーションだ。 そしてついに、ライカの加速がドラゴンの素早さを追い越した。 先程よりも強烈な衝撃剣、しかしまだドラゴンの皮膚を通すことは出来ない。 私はもうロデオ状態だけどな! 着地したライカは再度跳躍し、これまで見せなかった赤き刀身を煌かせた。 ドラゴンキラー。 どれほど頑強な鱗をも容易く切り裂く絶対の剣。 ドラゴンの首筋から鮮血が吹き出る。 今までこれほどまでに深い傷をドラゴンに与えた者を、私は見たことがなかった。 「だ、大丈夫……?」 思わず弱気な声が出てしまう。 しかしドラゴンは痛みに暴れるようなこともなく、いつも通りの声で応える。 《強き人間だ。だがこの程度で倒されるほど我は優しくないぞ》 ライカの強さを褒め称えるように、渾身の力で斬撃剣を放った。 強化に強化を重ねた二発の斬撃で、ついにライカは倒れた。 「やった! さすが……」 しかし声は続かなかった。 アリスの放った全体剣が既に至近まで迫っていたのだ。 私はドラゴンの背の上で膝を突いた。 もともと体力の低い自分のことだ、これはまずいのを貰っちゃったなと実感した。 遠くに、次の全体剣を構えるアリスの姿が見えた。 ああ、やられる。 あの全体剣が来たら、間違いなく落とされる。 くそー、やっぱり私は役に立たなかったな。 ぎゅっと目を閉じた。 ………… しかし、いくら待っても斬撃は飛んで来ない。 恐る恐る目を開けると、アリスが枕まみれになって伸びていた。 《共に戦うのなら、あの娘より我の方が素早く動けることくらい覚えておけ》 そう言うとドラゴンはふっと消えた。 ……ライカとアリス似てるからさあ……あんな状況じゃ勘違いしても仕方ないじゃん…… 自由落下を余儀なくされた私は、アリスが伸びている枕の山に仲良く頭から突っ込んだ。 -------------------------------------------------------------------------------- 勝者:木俣公子 --------------------------------------------------------------------------------