ぴよりあ/メモリア
エピローグ ――あの夏は、本当に特別だった。 太陽がギラギラと輝き、草や木の影を真っ黒に落としていた。 空気に潮の匂いが混じり、虫の声が遠くに響く。 風はなく、ゆっくりと時間が過ぎていく。 そんな夏の中に佇む私の隣には、いつも、有くんと、ぴよくんがいた。 何も分からずに苦しむ私の心を、そっと解してくれた。 私が強くなるために必要なことを、知らず知らずのうちに教えてくれていた。 ぴよくん。 あなたのおかげで、私はこうして一人で立てるようになった。 ようやく立ち上がることができた程度で、まだ一人で歩くことはできないけど……。 それでも、あの頃からは考えられないほど、私は強くなれた。 あなたがいなかったら、私は今もまだ、有くんを困らせていたのかもしれないね。 ありがとう―― ◇ ◇ ◇ 「公子、そういえばあなた、もうすぐ誕生日だっけ」 身が縮まるような寒さが和らぎ、また、夏が近づいてきていた。 「うん? そうだね。あー、今年もアニバーの苺ケーキがいいなー」 あれからずいぶん長い時間が経った。 夏も、何度も通りすぎていった。 「はいはい、あんたもお子様ねえ」 それでも私は、あの季節が来るたびに思い出す。 かけがえのない初めての友達と、私に優しくしてくれたあの人との思い出を。 「お子様でいいの。ぬいぐるみみたいなクッション枕だって抱いて寝ちゃうんだから」 あれから私にも、色々なことがあった。 「開き直っちゃってこの子は……。そうだ、今年は夏休み、どうする?」 中学生になり、高校生になり、ようやく私は他人と話すことができるようになった。 少しだけど、友達もできた。 「ん……そうだね。私は大丈夫だよ。行こう」 そしてこの家にはもう、お父さんとお母さんと、私しかいない。 「……そう。なら、行きましょうか」 何も、寂しいことはない。 「それよりさ、誕生日プレゼント! 何にしようかなー。あ、図書カードは嫌だよ」 私は誰のことも忘れたりなんかしない。 「ああ、それなんだけどね」 新しく出会った人たちとも、いつか別れがやってくるのかもしれないけど。 「あ、チャイム。はいはーい……あれ、クリーニングの人かな」 それを理由に逃げるようなことだけは、したくない。 「あら、もう来ちゃったの」 別れても、思い出は消えない。 私の血肉となって、最後まで一緒に生きる。 「あ、クッションだけ先に届けてくれたみたい。ちょっと出てくるね」 生きてさえいれば、もしかしたら……。 「……まったく、せっかちなんだから……。でもまあ、いいか」 また、出会えるかもしれない。 「ちょっと早いけど、誕生日おめでとう、公子」 そして私は、扉を開けた。 おしまい |